【BRM920 ええじゃないか伊勢夫婦岩1000】その7 DAY3(前)600~760km
2014年9月22日(月)AM3:45
僕が目を覚まして感じたのは、いやらしい汗のベットリ感だった。
昨日と同じ場所、そして同じ部屋。変わっているのは、目の前のテーブルに置かれているドリンクバーの飲み物がメロンソーダからホットココアに変わっていることくらい、それ以外は部屋の雰囲気も何もかも変わっていない。
僕が寝ていたリクライニングシートは最初は寝れないものだと思っていたけれど、2日も経験すれば慣れるものだ。慣れないのはカラダの変化だ。昨日より疲労の度合いが大きい。最低の足切り平均速度が緩和されたということに対する張り詰めた気持ちが抜けたということもあるけれど疲れているみたいだった。室内にいるのに寒くて、体が震える。エネルギー補給が追い付いていないことがわかる。急いで昨日寝る前に買った黒酢を飲んで、一時的な処置をとった。*1*2
さっきまで感じていた震えが次第に消えていくのがわかった。自分のカラダの刺激に対して、敏感になっている。
時計を見ると、3時50分。そろそろ出発しないといけない。次のチェックポイントは制限時間が設定されている。ブルベの制限時間は、おおよそ時速15km/hのスピードで設定されていて、600km以降は時速12km/hで換算できる。
現在、僕のいる場所は603km。この12km/hルールが適用される場所に僕はいた。
今後の計画を頭の中で考えた。小学校で出る文章題みたいなもんだ。
おおよそ4時間半前に仮想敵Aは時速12km/hのスピードで進んでいて、現時点で48km先に走っている。それに対して、僕Bは遅くとも2時半にAに追いつくために何キロのスピードで走ればいい?といった具合。
追いついても、休むことを考えるとマージンを稼ぐ必要があるのだ。僕の走力は、だいたい時速19km/hくらい。計算上では午後1時にAに追いつく計画だった。そうすれば、1時間は進むスピード分の貯金を得ることが出来る。
よし、いこう。
眠っていたリクライニングシートから離れようとした。だけれども、脚を動かすと関節が痛むのと、レーパンの衛生状態が悪くてベタついてなかなか離れない。気持ち悪かった。幸い、衛生状況的に走行には支障はないみたいだ。
お会計は、昨日と同じ900円。やっぱ安くていい。でも、ほんとは健康ランドがベストだよね。てか、会計をしている時点でめちゃくちゃな寒さを感じた。外に出たくない。
戸を開けると、猛烈な寒さ。布団で休みたい。
僕以外にも何台か自転車が。池田さんもまだ寝ているみたいだった。寝坊しなれけばいいなあ。自転車にかけた鍵を渋々外して、ライトを点灯させる。少し削れたクリートで、ペダルと一体になる。このお世話になった満喫ともここでおさらばだ。とにかく走って温まろう。
今日も長い一日になりそうだ。
クリートをはめて、寒空へと駆け進む。
走りだすと、真っ暗な道が広がる。
景色はただただ広がる一本道、それをぼんやりと照らす街灯、そして申し訳ない程度にカラフルな世界にしようと務めている信号だけ。時折、トラックと地方独特のちょっとした改造車が後ろから抜いていく。自転車が走っているなんて考えていないだろう。ぼんやりとそんなことを考えていた。
そんな退屈な道を走り続けているわけだからか、強烈に眠気が襲ってくる。あれほど寝たのに、まだ眠くなるなんて。
時折、だれもいないことを確認して歌ったりして気を紛らわす。どこかで聞いたことのある歌、懐かしい歌、・・・。*3歌っていると、気分はいいのだけれども、あまりに眠くて歌詞が思い出せない。1番と2番がごっちゃごちゃになって、もどかしくなる。信号待ちをしている間、頭を自転車のハンドルに乗っけて目をつむることにした。それだけでもほんの少しだけ、その場しのぎの回復を取ることができる。それでも、突発的にマイクロスリープが襲ってくる。ここで事故なんてしても誰も助けてくれない。あとで気づいたけど、あの眠気は寒さからくるものだったのかもしれない。
わかりにくい交差点を、事前にストリートビューを用いて予習したこともあり簡単に通過することが出来た。
立体交差点の下をくぐって、整備されたバイパスへと差し掛かった。
ここまでのペースは自分が予想していたよりも遥かに悪く、1時間で15kmしか進んでいなかった。*4
橋を渡って、いよいよ名古屋市街に入る。標識は見えないけれど、明らかに建物が高くなっていた。
名古屋市街を走って感じたことはいろいろある。
だけどひとことでいえば、「信号が多くてイラつく」で片付く。
名古屋市街の信号は、すべてなぜか感知式ではなく時間通りに切り替わる。そのため、車が全く通ってない状況だとしても信号は赤になったり青になったりする。僕はこれに悩まされることとなった。あたりまえだけど信号にとって、自転車のペースなんて全く考えちゃいない。青信号⇛頑張って走る⇛次の信号で赤 ということをエンドレスで繰り返していた。
頑張っても頑張らなくても赤信号でストップだ。次第にモチベーションが下がっていき、「ふざけんな」という気持ちと「急がないと行けない」気持ちに責め立てられる。こういう時は、ちゃぶ台を投げたくなる。1時間あたりのスピードも下がる一方だった。何度同じ景色を繰り返したのだろうか。さっきと変わったのは、街灯の数が増えただけだ。
ビルの高さが変わって、ようやく市街地の中心に差し掛かっていることに気づいた。そろそろ、ドロップバッグを預けている郵便局に差し掛かるところだ。バッグの中身はジャージ一式。
真っ黒だった街が再び色を取り戻していく。まだ濃い蒼の街は、中央市街を走っているとは思えないくらい交通量が少なかった。
反対側に郵便局が見えた。
夜勤明けの人をすりぬけ、店内に駆け込んだ。シャッターが閉まっていたけれど、「押してください」と書いてあるブザーを押すと、古い映画に出てきそうな赤色のシャッターから局員が出てきた。、府中で送る際に預かった伝票を渡すと、局員はバックヤードへと戻り、服の入ったバッグを渡してくれた。
「ありがとうございました」とお礼を言って店を出て、着替えるためにすぐさま反対側にあるコンビニへ駆け込んだ。
着替えると、柔軟剤のいい匂いが僕を包んでくれる。身体も除菌シートできちんと拭くと更に気持ちいい。
それまで着ていた服はどうすればいいか?それは、コンビニから送ればいいだけだ。自宅の住所を送り先に書いて、ミッションコンプリート。*5ついでに小腹がすいていたから軽食をとることに。ホットドックと補給食のブラックサンダーを買って、店外で簡単に食べることにした。あたりを見るとさっきよりあきらかに明るくなっていた。それでも、まだ車の数は少なく、ジョギングをする女性や、犬の散歩をしている人、ボロい自転車に乗っている、所在不明な方。それぐらいしかいなかった。ブルベライダーは、未だに見ていない。
うんざりするほど再び信号のある交差点を通りぬけると、小さな坂に当たる。このあたりは中京圏の大学が集中しているっぽい。八事という地区で、愛知県南東部に抜けるための街道に合流した。ふと左を見ると、ギリシャ風の建築物。見覚えがある。高校の頃進学候補地だった中京大学だ。しばらく物思いにふけった。
名古屋B級グルメの代表格「喫茶マウンテン」もこの近くにあるらしいのだが、時間的にもちろん営業していない。また今度にしよう。
交通量が増えてきた。トラックや乗用車の量が増えて、真横をトラックが通りぬけて、車輪がゴワンゴワンと音を立てていく。運転手がきちんと見ていることに感謝する。じゃないと今頃撥ねられた猫のようになってしまう。信号の量自体は先ほどと変わらないが、信号に引っかからなくなった。走行風を利用してペースを上げていく。同じ名古屋でも、いいところと悪いところがある。
ビルの数が少なくなってきた。そして朝が来た―
時間を確認すると、朝7時。ぼんやりとした空はいつの間にか明るくなっていた。
交差点を左折すると、いよいよビルが無くなり、市街地を脱出。信号の代わりに増えたのは、同じデザインの自動車。
愛知県豊田市。「トヨタ自動車」お膝元のこの町を、僕は初めて訪れた。時々、工場らしき建物が見える。「豊田市はトヨタの車しかない」そういう都市伝説をどこかで聞いたことがあったが、それは嘘じゃなく、僕の脇をすり抜けていく車はトヨタか、その関連企業の車―ダイハツや日野、だったりする。
僕はそんな企業城下街のようなところに住んでいたわけでもないから、なにか他の国に来たみたいなものだ。
工場の入り口周辺には、まるで街路樹のように、緑色の帽子を被った工場員たちが立っている。何をしているのだろうと一瞬考えるもなく、一昨日に似た光景を見ていたことを思い出した。
CSR活動の一環だろうか、交通安全運動は本当にしっかりとやっていた。トヨタの工場前だけでなく、交差点の至る所に、同じような緑の服を着た男女がきちっと見ていることからもわかる。正門前の人たちは皆、「通勤、通学の皆様…」と。何か標語を唱和していた。そこで、もうひとつ大事なことに気がついた。
「今日平日じゃん!」
もう月曜日に変わってしまったのか。時間は濃密に感じ、いろいろなことがあったことを思い出すけれど、そんな気持ちとうらはらにもう二日間も経ってしまったのか。なんて考えている自分がいる。何か不思議な気持ち。
このころから、自転車に乗ることが楽しくてしょうがなかった。車社会の街でも自転車が生きていけるから?それとも、ペースがいいから?今日が月曜日なのに僕は関係なしに走っているから?たぶん、全部かもしれない。
通勤ラッシュの影響で、車社会のこの街の道路にも渋滞ができていた。その脇はとても広いスペースができていて、一気にパス。「皆が通勤している間も、僕は走っているんだ!」なんて愚かな気持ち。でも、それも優越感。笑顔になっている自分がいた。まだ、走っているライダーは見えていない。
となり町の岡崎には気がついたら入っていて、通学する高校生の集団を尻目に僕はただ東へと進んでいた。幹線道路を走り、ちょっとした丘を幾つか越えていくと、高速道路が見え、その下をくぐり抜けた。
すると、前方に女性ライダーの姿が見えた。ピンクと白のウェアに、白い自転車。僕はその姿に見覚えがある。だけれども、なんでここにいるんだろう?その姿が本当か確かめるために、ダンシングをして、ゴールスプリントで差すかのように僕は脇に入り、横を見た。
やっぱり、間違いじゃなかった。けーこさんだった。
「え!? 今日も走っているんですか!?」と確認を取ると、
「そうだよ~ 昨日は平針の健康ランドに泊まろうと思っていたんだけれど、閉まっていたから別のところに泊まってたの」なんて言ってて、DNFしている人にはまるで見えない。元気だった。
「このままゴールまで走るんですか?」なんて冗談とも本気ともつかないことを聞いてみると、予想通りの答えが帰ってきた。「うん!」
インターを抜けると、さっきまでの工場の街はどこにあったのだろうと思うほど、何もない山沿いの道だった。
再び田んぼの風景に戻る。川を越え、ちょっと登ると通過チェックポイントのコンビニが見えた。ここは制限時間が設定されていない。
通過チェック 670kmには、8:40に到着。コンビニの軒下には、またこれも、どこかで見たことのある姿が。「おつかれ!」と軽やかな声で、初日のコンビニで一緒になったサカイさんだということがわかった。あともうひとりは、名古屋スタッフのいずみさんかな?つかの間のひとときだ。
「よくここまで走ってるねえ~」と褒められ、ちょっと嬉しい。サカイさんはどうやら2日目あたりでリタイヤをしてしまったようだった。ここから、リュウさんたちを待つのだという。
そんなサカイさん達に、現在の状況を話す。「PC4までここから107km。残り5時間40分を毎時19キロで走らないと間に合わなくて。」
そう伝えると、サカイさんとイズミさんはPC間のコースプロフィールを見せて、僕にこう言った。
「ここから先は国道150号だから、信号に引っかかることもあまりないし、たぶん間に合うよ!東海道は追い風気味だし」諦めかけていた闘志にもう一度火を灯す。「ありがとうございます、ここまで来たんだからなんとかしてみます!」と僕は宣言をした。
眠くなりそうなくらい、気持ちがいい。
小気味よい下りと登りを繰り返し、「岡崎ホタルの学校」と書かれた標識が差す道を進んでいく。あたりはもう田舎道。里山みたいなところの間を通り抜けていく。途中で長距離運転をしていたトラックが止まっていた。*6
ここから小さい峠を越えて、再び市街地へと合流する。
まだ峠に入る前の小さな坂道でも、斜度はぜんぜんきつくないのに、脚が回転しない。疲労を感じる。
ちょっとした森を抜けると、一面に広がる畑とその中央にぽつんとある白い建物。
「ホタルの学校」と、おそらく小学校の名前があっただろうパネルに堂々と書いてあった。どうやら去年、廃校になってしまったのだとか。そりゃあそうだろう、周り家が3軒ほどしかないのだから。
里山だ。ほんとうにただ田んぼと畑の世界。このあたりはまだ、セミが鳴いていた。
峠に差し掛かる。広告も電灯もなにもない。息が荒れる。
頂上手前に差し掛かると、それまで10mくらい幅の遭った道が一気に狭くなり、緑のトンネルが現れた。心が洗われる。綺麗な景色は、一瞬で通り抜ける。
上を見上げると、長く伸びた木々が天へと一直線。こんなところを走れるなんて、贅沢だ!
名もなき峠をパスし、集落へと降りていく。
前方に、道に迷っているライダーが一人。ちょっと声をかけて会話をする。8時スタートの方だった。赤い自転車がやたら似合うひとだった。協力して、一緒に街へと下った。僕のほうがペースが速いみたいで、「また次のPCで!」と声をかけて別れた。
姫街道が見えて、左折する。再び交通量の多い道に合流した。
確かに姫街道も信号は多い。だけれども、それほどストレスにはならなかった。
豊川の中央市街も、よくある地方都市みたいなところ。サイゼリヤがあって、ガストがあって、時々ゲオがある。嬉しいのは、片道2車線だということ。さすが車社会。モーターリゼーションバンザイ。
JR飯田線の踏切を渡り、この街の由来であろう豊川沿いを走る。僕は景色を楽しむ余裕なんてどこにもなく、ただ流れていく時間とにらめっこをして、随時頭の中で計算をしていた。そのあたりで”点A”に追いつくのか。この一時間で、8km差を詰めたことはわかる。足切り40分前の場所で追いつく計算ができた。このままだったら。
もちろんそんな順調に行くわけもなく、ミスコース。しかも2kmほど。急いでミスし始めたところから復帰するも、さっきまで稼いでいる時間がムダになってしまった。
手すりが錆びついた鉄橋を越えて、愛知県の東端へと再び向かう。
豊橋市に入る。どうやらこの街では、路面電車が活躍しているようだった。
生まれ育った街に路面電車がないからちょっとワクワクする。電車のデザインも古いやつから新しいやつまで、様々なタイプが走っている。道路の真ん中を堂々と列車が通過していくのは、面白い。
「コーヘー!」
声が聞こえた。
幻聴か、それとも車の音なのだろうか?
「コーヘー!!!」
ようやく誰かわかった。すーさんだ。
「コーヘー!がんばれー!」
「あざす!!」
僕は止まることができなかったので、それしか言えなかった。
後で知った話だが、すーさんはこのあたりにある実家を訪れていたようだった。
ブルベ中に実家を訪れること、それはロードレースで自分の生まれ育った街を凱旋するような感覚に近いのかもしれない。
風は西から。よし、行ける!という確信を持てた。時速33kmぐらいでだだっ広い道をひたすらに走る。
今、走っている僕に見えるもの、それはビニールハウスだったり雑草の生えまくった田んぼだったりする。信号はめっきり減った。「静岡県」の標識を横目に、ここから平地ボーナス区間のスタートだ。
自転車と僕を邪魔するものがない。時折見える信号は全て青になり、自転車と身体が一体になったような感覚。それにしても、ここまで700km走っていて身体に痛みを感じない。これまでだったら、ここで限界が来ていてリタイヤをしていたのだろう。これまでの準備は、嘘をつかない。前へ、前へ。
だれけども、暑さの対策は想定していなかった。思ったよりも気温が高い。照りつける太陽が容赦なく僕を焦がしていく。イライラするほど暑い。感情が高ぶっていた。些細なことで、喜怒哀楽が激しくなる。
変わらない景色に再びイライラしている。投げやりになりたい。まったく、どうしようもない気持ち。
そんな感情を変えたのは、浜松市にたどりついた時。右に見える青い海。浮かぶ鳥居に見覚えがあった。
浜名湖、弁天島だ。2年前に電車で見た覚えがある景色。2回めの景色は、自転車から。自分が今いる場所が明確になったことで気持ちに落ち着きが生まれた。
それでも、相変わらず僕は、時間を気にしている。なにもかも流れていく景色。僕は前しか見ていない。スピードメーターを見て、前方に信号があるのかないのか確認を繰り返す。走行風と追い風を利用して、ひたすらに前の”点A”を追いかける。僕はレーサーにでもなったような気分で、逃げ切りを図ろうとしている”点A”を追いかけている。信号が赤になるたび、現実へ引き戻されるけれど、信号が青になれば再び追いかけっこは始まる。交通ルールはもちろん守って。
点Aまで20㎞の差まで追いついた。おおよそ1時間ほどの差。死んでも追い抜いてやる。なんて。PCまであと30km。
自分との対話はつらい。間に合うのか間に合わないのかもわからない。いいかげんにしてくれ。自分だけしか周りにいない。静岡県は広い。それだけだ。
写真を撮る暇なんてどこにもない。どうにかなりそうだった。ついに信号も建物もなくなり、登っているのか下っているのかよくわからない。似たような看板が連続して、幻覚でも見ているようだった。
暑さと空腹からエネルギーが切れて、ふらふらしてきた。
「どこかに自動販売機はないか…。」朦朧とした意識の中で走っていると、目の前にダイドーの自販機があるのを見つけた。炭酸ゼリー飲料を飲んだときの美味しさは今でも忘れない。
PC4(第四チェックポイント)のコンビニが見えた。ランドヌールが大勢いる。
「まだ間に合うぞ!!」と誰かが言っているのが聞こえた。シンさんの声だと思ったけれど、誰だったのだろう。昨日と同じように、再び店内に駆け込む。
大丈夫だろう。とりあえずおにぎりも掴んでレジへむかった。打刻されている数字を見てホッとした。クローズ(足切り)7分前。またギリギリ隊だ。
それにしても、店の正面で休むにも太陽の直射日光が眩しい。店の裏が広そうなのでそちらへ向かってみた。見ると、十数人くらいのライダーが横にくたばっている。
うなだれている人たち。ここは戦場なのか・・・。
僕はその横に座り込み、ご飯を食べることにした。食べていたけれど、僕も次第にうつろうつろになっている。なにやら目眩もしてきて、身体が熱を帯びている。熱中症に陥っているかもしれない。食べ終えて力を抜いた瞬間、パタリと横に倒れこんだ。
もう精神も限界に近づいているのかもしれない。地面が冷えていて気持ちいい・・・。
…1時間ほどして目が覚めただろうか。
身体はさっきよりも熱を帯びていない。熱中症の症状だろうか、ややだるさが残る。
筋肉は、ほとんど回復していない。そろそろリカバリーできないところまできたということだろう。
今まで、こんな距離を連続して走ったことがないから、わからないことばかりだ。
よれよれの身体を地面から引き剥がし、表へ出ると、池田さんとすーさんの姿が。どうやら、ふたりとも僕と同じようにクローズ数分前にたどり着いたみたいだった。「もうだめだって思ってたら牽いてくれた方がいたんですよ。R東京のジャージを着た方だったかな?」と僕に話しかけた。イケダさんも、あのあと漫画喫茶で寝過ごしてしまったのだという。そしてすーさんときちんと話すのは、初日のスタート前に会った時以来だ。「コーヘー君、元気してた?」と疲れ知らずの顔をして、すーさんは僕に声をかけた。
「いつごろ再スタートしますか?僕も一緒に走りたいです」と言うと、
「他にも女性2人と一緒に行くけど、大丈夫?」とすーさんは言った。
「それでもいいです」と僕は言い、このトレインに乗ることにした。
イケダさんも同じくトレインに乗ることになった。
PC到着から1時間半は経っただろうか。こうやって寝ている間にも、”点A”は相変わらず時速12km/hで、走っている。18㎞前を走っているのだ。
これから再び追いかけっこが始まるのだと思うと、ちょっとわくわくする。追われる方より、追う方が僕は楽しいのだ。今度は静岡県の東端、函南を目指して走る。