さわらいど

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ブルベ3年目の大学生→社会人。主に自転車ロングライドが中心。多摩・長野を中心に走っています。

【BRM920 ええじゃないか伊勢夫婦岩1000】その5 DAY2(中編) ようやくお伊勢詣り

2014年9月21日(日) PM1:15 三重県志摩町 スタートから30時間経過

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残り、550㎞。

 

 

それまで好きだった晴れている天気が一気に嫌いになった。

途方にくれて立ちすくむ。

というのも、シフトワイヤーが切れて、替えのワイヤーはないから。

 

シフトワイヤーが切れたら、変速することができない。だから、ギアが重すぎて坂を登ることができない。

 

「もうだめだ。終わった。」ここからあとゴールまでは500km以上あるのに。ここで挑戦のドアは閉まったんだって、そう感じていた。

 

ぼんやりとここまで来た一本道を眺めて、現実逃避をしようとしていた。だけれども、変速が出来ない限りこの先の道を走ることなんて到底不可能。泣きたいような、笑いたいような。そうやってぼんやりと道を眺めていると、

ピンクのジャージを着た人が近づいている。僕の前で、止まった。

 

 

「大澤さん、どうしたんですか?」池田さんは僕にそう話しかけてくれた。 

 

イケダさんは、僕が立ち止まってるのを心配してか、目の前で止まってくれた。事情を説明すると、「換えのケーブルがあります、手伝いますよ」と。

だけど、ほんとにいいのか?池田さんだって、ここまで稼いできた時間があるはずだ。それを、僕が奪っていいのだろうか。たまらず僕はこう言った。

 

「こんなことで池田さんがここまで稼いできた時間を僕が奪うのは申し訳ないです。」すると、その穏やかな顔を一つも変えずに、こう返した。「私は時間ありますし、いいんですよ!ここまで走ってきたのに、走れなくなっちゃうなんてもったいないですよ。誰かが困っていたら、その人を助けてやればいいんですよ。」

 

そう言うと池田さんは、すぐに僕の自転車のシフトレバーのカバーを開けて、交換に取り掛かった。僕は申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 

 

作業に取り掛かったけれども、なかなか抜けない。ワイヤーが奥に入り込んでいた。いったいどうしたらいいのだろう。しばらく、シフトレバーの変速をガタガタ押していると、少しだけ、切れたケーブルが顔を出してきた。「もうちょっとですよ、大澤さん」と顔をニッコリさせて僕を見た。僕はというと、額から砂時計のようにボタボタと汗が滴り落ち、焦りを感じる。「ガチッ!」ワイヤーに工具が引っかかった音がした。抜き取れる!ググッという感覚がして、引っ張るとスポッと一気に抜けた。

 

その瞬間、池田さんと僕は周りも気にせず、「やった!!」と2人で声を出して喜んだ。急いで新しくケーブルを差し込み、動作チェックをして修理完了。終わった時、嬉しさと申し訳無さで泣きそうになった。合計の停車時間は1時間ほど。この時点で借金は1時間半に達していた。いまの自分の実力だと、次のPCまで間に合うか間に合わないかギリギリのボーダーライン上だ。

 

「ここでリタイヤして、電車で帰るか?」そんなことも正直頭をよぎった。

 

だけれども、ここは東京から500km離れた三重の港町。ここで電車で帰るなんてうんざりだ。結局帰るのなら、途中で電車になっても「その時」が車で自転車の上で走っていたいじゃないか。池田さんがこのピンチを助けてくれた。何かあるのかもしれない。どうせなら、行けるところまで行こう。

 

「本当に、ありがとうございます!」池田さんにお礼をすると、池田さんはもう一度僕に言った。「うん、次から誰かが困っていたら、その人を助ければいいんですよ。」と。

そうならないための準備、あと直すスキルをつけないと。

 

再スタート。90分のビハインドを取り戻そう。

 

▼海沿いの道を右折し、いよいよ本日のメインディッシュ「剣峠」に。

 

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標高は0mから一気に350mまで登る。もし修理ができなかったら到底登ることが出来なかったはず。この峠を登ることができるのも、さっきの修理のおかげ。斜度自体は、それほど厳しくない。

 

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海沿いにあるこの峠は、片道一車線しかない上に、路面には大量の落ち葉や石が落ちていて、走るスペースは限られている。車が作った轍を通りぬけ、上へ上へ目指していく。

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前方を走っているライダーをひとり、またひとり抜いていく。ケイデンスを上げていく。

 

いいかげん疲れた。ヘアピンの先にモニュメントが見える。頂上だ。

 

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出発したときにいっぱいだったスポーツドリンクが入ったボトルが、すっかりカラになってしまった。喉も、気持ちも乾いている。だけれども、ふと後ろを見ると山々の間から見える南伊勢の海、そして島々。ここまでのライドでも有数の景色だった。時間も疲れも置いといて、景色をひたすらに眺めた。

 

 

 

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時間を忘れ、眺めていると、うしろから何人かやってきた。イケダさんもいるし、がんちょさんも登ってきた。この2人は8時スタート。いかに僕がピンチに立たされていることがわかるであろう。

 

みんな「きつい」と言っていたが、僕はそれほどでもなかった。多分、さっきので脳内物質が出まくっていたし、そもそも僕がコンパクトドライブにしていたからだろうと思う。

 

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伊勢側へ向かう峠の下り。神秘的で、ひたすらにきれい。

 

 

下りも登りと同じで、自転車の通れるスペースは轍だけ。しかもその轍にも、石が落ちている時があって、油断は許されない状況。ちょっとでもミスったら即パンク、ここで僕の長旅は終わる。でも、そんなスリルも今では楽しい。すっかり自分に酔っているみたいだった。我ながら、少しきもちわるい。

 

5人位の高校生か中学生が、反対側からママチャリで登っていくのを見た。

ここに登っていくのも、彼らにとっては冒険なのかな。僕が中学生のころ、隣町へ行くことが冒険だったように。今考えると、誰かが言った「ロングライドは心の状態」という言葉はほんとうに、その通りなんだろうと思う。後ろから池田さんがやってきて、一緒に下る。やがて段々斜度が緩くなり、峠の終わりが近づいている。

 

 

そしてカーブを左に曲がった途端、前方が突然開けた。道が広くなり、出てみると目の前にはものすごい人だかりが見えた。観光バスと観光客。そしてどこかで見たことのある鳥居。昨日トンネルをくぐったらワープした感覚のように、僕らは急に飛び出した。

 

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伊勢神宮ですよ」と池田さんが僕に教えてくれる。

え!?ここなんですか?

伊勢神宮

 

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伊勢神宮内宮。日本史ではおなじみの天照大神を祀るこの神社は古くから存在し、江戸時代には「お伊勢参り」が流行し、全国各地から多くの参拝者が訪れた。「御蔭参り」という周期的な集団参拝の時には何百万人もの人が伊勢神宮まで歩いてきたというから驚きだ。僕も時代を飛び越え、「御蔭参り」の一員として伊勢までやってきたのだ。

 

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そんな伊勢神宮内でお参りをしたかったのだけれども、制限時間に間に合いそうにないので、外の写真を一枚撮り、神社の方向を向いて参拝をした。

 

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いま見ても、ポーズが意味不明

 

赤福の文字が頭にチラつくけど、そんな時間はどこにもない。おかげ横丁をスルーした。伊勢神宮を通りぬけ、PCへと急ぐ。

 

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夕焼けに雲が絶妙に重なってて綺麗。後ろからやってきたライダーたちと一緒に運動公園沿いの交通量が少ない道を走る。

 

 

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すっかり秋空。

 

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イケさんはまだまだ元気そう。

 

おとといの石和温泉駅で挨拶したシラカワさんをパス。「おお、元気だったかい?」なんて励まされた。

 

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夕焼けが差し込む中  490km地点 夫婦岩サークルKには16:30に到着。池田さんはここで長い休憩をとるとのことで、再スタートはバラバラに。

 

つかの間の休憩。ふと前を見るとどこかで見たことのあるMTBが2台。

フィリップさんとチャリモさんだ。「元気?」と声をかけられた。

 

ペースは違えども、ここまで同じ500kmを走ってきたライダーだ。

それにしても、普段の2人のペースならもっと速く走っているのでは?

2人に夫婦岩のある場所へ案内してもらった。

 

コンビニを出て、夫婦岩がある海岸沿いの神社へと向かう。通路端に自転車を置き、砂浜を歩いているカップルや家族連れを横目に参道を進む。

                          

しばらく進むと、さざなみひとつもない海に浮かぶ、大小2枚の岩が見えた。うーむ、彼女が隣にいたらいいのに。

 

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確かに「寄り添う夫婦」に見える。岩と岩の間はしめ縄で結ばれているそれを見るために、周辺は大勢の観光客で賑わっている。「夫婦岩」。僕が一番見たかったものだ。彼女は欲しいけど、まだ出来ない。思いをはせて祈ってみた。

 

 

実はPCに着いた時、こんなことをチャリモさんから告げられた。

 

「フィリップさんはここで仕事でおわり。」

「それで、俺はブヨに刺されちゃってめっちゃ痛すぎてどうしようもない。」

チャリモさんは健気に振舞っているけど、悔しくて仕方がなさそうだった。

ふたりとも目の前でDNFの連絡をし、2人の1000kmはここで終わった。

 

 

そんな僕も先に行かないといけない。次のチェックポイントまでの制限時間はそれほどない。急いで自転車にまたがり、出発をしようとした時、肩を叩かれてこう言われた。

「ゴールの制限時間、横浜にあさっての10時までだったっけ?」と。

時間を告げると、

 

「わかった、じゃあ俺たち明後日のその時間、フィニッシュ地点に迎え行くから、絶対完走してよ!俺らの分も託したよ。ゴールで待ってるから!」なんて約束をした。まいったな。そんなことを言われると頑張らないといけないじゃん。よし、やってやろう。

 

「ゴールで待っててください。約束通り絶対横浜に戻ってきます!」

 

残り500km。約束ひとつ、飛び出した。

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チャリモさんとフィリップさん。本当の夫婦みたい?笑

 

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携帯を見ると午後5時。依然、借金は1時間半のままだ。

 

つづく。