さわらいど

さわらいど

ブルベ3年目の大学生→社会人。主に自転車ロングライドが中心。多摩・長野を中心に走っています。

【BRM920 ええじゃないか伊勢夫婦岩1000】その1 プロローグ~出走前日まで

以下日記は、筆者が21歳時に参加した1000kmブルベ、

BRM920 東京1000 ええじゃないか伊勢夫婦岩」を振り返った日記である。 

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日が沈みはじめ、澄み渡っていた青い空をオレンジ色の太陽が包み込んでいく。秋の訪れは思ったより早く、だだっ広いこの道に植えられている街路樹の葉は茶色に変わり、時折見える田んぼの稲は全て収穫されていた。

 

僕は、海に向かい走っていた。どうしても見たいものがあった。

左手にコンビニが見え、それまで先頭を引っ張っていたライダーが手信号を出し、コンビニに入るサインをする。通過チェックポイントだとわかった。軒下に立てかけられた多くの自転車、見回りに来ているスタッフ、疲労困憊でぐったりしている反射ベストを着た人たちの姿。しばしの休憩だ。他のランドヌールがそうしているように、僕もコンビニの軒先に店を広げて、店内で買った鶏めしとビックルを食べてカロリーチャージする。胃酸が逆流しそうだ。でも、こんな疲れた時でも食べることのできる胃に感謝したい。


しばらく休んでいると、スタートの時に話した2人のライダーと再会することができた。ペースは違えども、ここまで同じ500kmを走ってきた仲間だ。ここまでの状況報告をお互いに話した後、彼らは僕にこう話してきた。

 

「そーいえば、伊勢まで来たなら「あれ」見ていかないの?案内するよ」

 

そうだった。僕は彼らについていくことにした。コンビニを出て、「あれ」がある海岸沿いの神社へと向かう。通路端に自転車を置き、砂浜を歩いているカップルや家族連れを横目に参道を進む。カツカツと音を立てるビンディングシューズは、とても歩きにくい。しばらく進むと、さざなみひとつもない海に浮かぶ、大小2枚の岩。確かに「寄り添う夫婦」に見える。岩と岩の間はしめ縄で結ばれているそれを見るために、周辺は大勢の観光客で賑わっている。「夫婦岩」。僕が一番見たかったものだ。僕には嫁さんはいないけれど、せっかくなので祈ってみた。好きな人がいるけれど、言うのが遅すぎた。でも、もう一度と祈る。何か形に残したかったので2人に声をかけ、写真を撮ってもらった。もう思い残すことはない。

 

 

 

「無事カエル」ということなのだろうか、境内にはいたるところにカエルの石像が置いてあった。頭をポンポンと叩いて安全祈願。目的を達成し、さあ帰ろうと参道を折り返し帰ろうとした時、突然2人からこんなことを言われた。

「実は、ふたりともここでリタイヤすることにしたんだ。走りたいんだけれど、僕の足が痛くてどうしようもない。これ以上走れないんだよ。」

僕はショックだった。ここまで走ってきた仲間がリタイヤするのを目の前で見たことが無かった。できれば、一緒に走りたい。でも「無事カエル」ことが旅では一番大切だということを、僕自身知っている。命あってこそ、旅をすることができる。何かあってからじゃ遅いのだ。

 

彼らと一緒にいたいけれども、先に行かないといけない。次のチェックポイントまでの制限時間はそれほどない。急いで自転車にまたがり、出発をしようとした時、肩を叩かれてこう言われた。


「ゴールの制限時間、横浜にあさっての10時までだったっけ?」と。
「そうです、多分ギリギリに着くと思いますが」と言うと、彼はこう続けた。

「わかった、じゃあ俺たち明後日のその時間、フィニッシュ地点に迎え行くから、絶対完走してよ!俺らの分も託したよ。ゴールで待ってるから!」 

 

それを言われたとたん、胸の奥から熱くなるような、締め付けられる感覚がした。俺が2人のぶんもゴールしないと、なにか報われない気がする。
僕は大声でこう伝えた。

 

「ゴールで待っててください。約束通り絶対横浜に戻ってきます!」


沈みゆく太陽の方向へ、約束を守るために僕は走りだした。

 

 


▼リベンジ!! 
 


今年の2月から、僕は「ブルベ」というサイクリングの遊び方があることを知った。*1*2自転車で長距離を制限時間内に走る、それがブルベだ。一般的に距離は短くて200kmから、最大で1000kmや1200km。

 

そんな距離を走るなんて、初めて知った時は到底信じられなかった。だけれども、実際ブルベを始め、そんな距離がほとんど走れるようになってしまった。初めて2ヶ月で残りは1000kmのみとなった。


「今年中に1000kmを走りきってみたい。」

そう思って走った初めての1000kmブルベは、GW期間中に開催された「日本縦断2700km*3の第2ラウンド、「山陰北陸1000」だった。「600kmを走れたんだから、1000kmもいけるだろう。」だけれども、所詮それは幻覚に過ぎなかった。

言ってしまえば、それまで走ってきた環境が良すぎたのかもしれない。今まで経験したことのない、昼夜問わず降り続ける雨と股ずれに対応出来なかった僕はペースを落とし、睡魔、幻覚。そして最終的に寒さにやられ、京都のとある小さな街で低体温症にかかりリタイア。*4

 

救急車に運ばれ、4日間入院という最悪の結果となった。まだブルベを初めて2ヶ月、ノウハウなんて全くない、「体力だけでいけるだろう」なんていう根拠の無い自信だけで挑んだことが、すべての失敗の理由だった。*5

山陰北陸1000のトラウマを払拭し、しばらく経ったある日、今度は山梨発着の1000kmが9月にあることを知った。それがランドヌ東京というクラブが主催するブルベBRM920「ええじゃないか伊勢夫婦岩」だった。

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このコースのテーマはずばり「お伊勢参り」。前半は長野県や岐阜県の豊かな緑が映える山々を抜け、天照大神のお膝元、伊勢神宮と夫婦円満の象徴、夫婦岩を目指す。その帰り道は名古屋経由で東海道を走り、箱根の山を越えて神奈川へ。横浜・みなとみらいがゴールだ。

制限時間は75時間。 およそ4日間の旅だ。

 

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なんでこのブルベを走ることにしたかというと、もちろんこの前のリベンジを果たしたかったということもあるけれど、ホントのことを言うと、お伊勢参りができて、その帰りは横浜ゴールって素敵じゃん!って単純に思ったからだ。*6開催がブルベシーズン後半の9月ということで、これを今年最大の目標とすることに決めた。



コースが公開されてからしばらくして、ある日のこと。何気なくルートを調べると、とんでもないことに気づいた。1日目、最初の300kmが本格的な山岳コースだということに。内訳は、1000m級の峠が2回、小さい峠を含めればなんと7つの峠を連続で越え、獲得標高は4000mに達することに気がついた。つまり、1日で富士山を海抜0mからてっぺんまで、自転車で登るようなもの。クレイジー。自由に走って泊まるツーリングなら問題ない。

 

だけれども、これは「ブルベ」だ。のんびり走っていると、次のチェックポイントの制限時間を考えると、睡眠時間を十分に確保できない。それが問題だった。


先程も書いたように、ブルベでは絶妙に制限時間が設定されている。それは寝る時間を問わず、スタートしたらゴールするまでその時計は止まらない。そして通過証明のためのチェックポイントにも足切りの時間は設定されている。なおさら1000kmのように3日間以上走り続ける距離となると、自分が寝るための時間も走って稼がないといけない。登りで苦労していると、時間をかせぐことができず、睡眠時間を十分に確保できないのだ。





それの対策を取らない限り、今度の1000kmはとても完走できない。そのため僕は本格的に取り組むことにした。8月の頭にあった、自分の所属しているチームの夏合宿を皮切りに、仮想伊勢1000km前半区間として望んだBRM830相模原200kmへのトライ。更に平日は時折尾根幹を走ってトータルの脚力をつけ、結局週3回、毎回50~100km程度を走っていた。

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伊勢1000km練習チーム。PIPIさんとなーちゃんと3人でヤビツで練習。*7*8

それでも不安でいっぱいだったのだけれど、このころには僕なりに、それなりの手応えを感じていた。「夫婦岩を拝むことができるかもしれない。」と。

 

3 はかどらない準備・・・。



7月のエントリーも無事に終わらせ、走力やノウハウ的な準備はそれなりにできているのだが、キューシートの印刷、予備チューブの購入…といった準備は全くしていなかった。追い込まれないと準備しないタイプなのだろう、僕は前日から準備を始めたのである。しかも前日の午前中は後期授業のオリエンテーションに行っていたので余計あたふたすることに。


 装備面の話をすると、

・自転車…GIANT TCR2(2013 アルミ)

・サドルバッグ…ORTLIEB Lサイズ(3㍑ぐらい?)

・タイヤ…IRC JETTY(23c)

トップチューブバッグ…TOPEAK

・ボトルゲージ…TOPEAK(ペットボトル・ボトル併用可能モデル)

・ライト…キャットアイEL-540(乾電池併用可能タイプ)、

・ウェア…亀太郎ジャージ(ピンク)・ハーフレーパン(TIGORA製)・ロングタイツ(MIZUNO製)・ウィンドブレーカー。

・サドルバッグ…ノースフェイスのゴアテックスパンツ、Lowe Alpineのゴアテックスウェア、空気入れ、23cチューブ1本、タイヤレバー2本、オイル(フィニッシュライン)、タイヤパッチ、ボルダースポーツ、抗菌シート*9、お守り。ペンダント。*10

 

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装備面で一番ミソなのが、ボルダースポーツ。ロングライドにおいて避けられない股ずれの問題をカバーしてくれるスグレモノだ。*11ワセリンに代表される保護クリームの一種だけど、ベトベトしないので使いやすい。あとは、抗菌シートは汗をかきまくるブルベ中は本当に役立つ。汗臭さを抑えてくれて、衛生上もよくなるのでストレスを減らしてくれる。

 

 

さらに、今回は初めて「セルフドロップバッグ」なるものを試してみることにした。つまり、郵便局から郵便局へ荷物を送り、自分でそれを受け取りに行くことだ。郵便局で荷物の受取をするサービス「郵便局留め」のお陰でできる裏ワザだ。*12なぜそんなことをするかというと、長距離サイクリングで荷物を背負い続けると、体に負担がかかって腰痛等の原因となるからだ。これは荷物を預かれない施設への宿泊、つまり満喫や健康ランドに泊まる人とかには、特にオススメの方法だ。受け取った服を着替えたあと、それまで着ていた服は同じ袋に入れて家に送ってしまえばいい。


今回僕は、レーパンとジャージが入ったドロップバッグを630km地点、2日目か3日目に通過するであろう名古屋市昭和区の郵便局にへ局留めで送ってみた。昭和郵便局は24時間対応の「ゆうゆう窓口」なので何時でも取りに行くことができる。*13

ルートの計画を考える。

 

DAY1は とにかく山岳超え。320kmの立田大橋の満喫まで18時間で走ることを目標に進む。

 

DAY2は、満喫をスタートし、三重県へ。四日市鈴鹿のアップダウンを乗り越えて志摩のPC2へ13時までに間に合うよう走る。伊勢を折り返し、PC3まで走る。

 

DAY3は、交通渋滞の多い名古屋の市街を深夜または夜明けに通行し、東海道へ。東海道で貯金を稼ぐプラン。890km地点の駿河健康ランドで2~3時間ほど仮眠をとる。

 

 

DAY4、寒さが厳しいであろう箱根を越えて横浜のフィニッシュというプラン

 

ついに前日になった。学校の帰り、まずはリアライトとチューブをあさひで購入。家に着いて装備の確認をし、予備タイヤの準備やセルフドロップバッグの服で悩んだりしているうちに日が落ち、ドロップバッグの整理をしてアタフタ。

 

 

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結局スタート地点、甲府方面行きの電車に乗ったのは午後8時ごろになってしまい、到着は10時半ごろになってしまった…。各駅停車の車内は、ほとんど人がいない。帰宅途中のサラリーマンが、シートの一番端でグーグーいびきをかいていた。

 

高尾で京王線からJR中央線に乗り換え、山奥に入る。

 

 

大月で乗り換え、端っこの席に座る。僕以外にいないだろうと思って横を見ると、隣のシートに輪行姿で座っている40代ぐらいの男性がいた。
「ひょっとして、伊勢1000を走る人かな…?」と思い、声をかけてみることに。*14

 

「明日どこか行くんですか?」と遠回しに聞いてみると、

「遠くに行きます。あなたと同じとこかもしれないですね(笑)」と返事が。聞いてみると、やっぱり伊勢1000の出走者で、自分と同じ7時スタートだということがわかった。Oさんというその方と、明日のコースについての話題で盛り上がった。



東京から電車で2時間。山梨県甲府市。スタート地点の最寄り、石和温泉駅に到着した。10kgほどの鉄の塊を運び、プラットホームに出た。

他の参加者も何人か同じ電車に乗っていたようで、挨拶をする。*15輪行解除をして、今日の宿へ。Oさんとは泊まる宿が違うので、一旦ここで別れた。

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スタート地点でもある石和健康ランドに到着したのが午後11時。駅から自転車で5分というのかいい。駐車場に特設された自転車置き場に預け、とりあえず着いてホッと一息。ふと前を見上げると、白い横断幕。「ええじゃないか伊勢夫婦岩 START!」と書いてあるゲートを発見して、テンションが上った。ようやく、明日走るんだという実感が湧いてきた。

 

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健康ランドのオーナーが作ってくれたとのこと。他にも配慮があり、感謝。



チェックインをして、即効風呂。いや~きもちいい。健康ランドの一番の売りはやっぱり風呂。ついつい楽しくなって長く入ってしまった。12時半くらいまで入っていたのかな。遅すぎだわね、どう考えても。薬湯とかで疲労を取る前に普通に布団に入ってたほうがそりゃ疲労とれるわ。


さーて、寝よう。睡眠スペースは、R東京がブルベ参加者のために、仮眠室を確保してくれた。すごい配慮だ。部屋にはいると、真っ暗でよく見えないが、ズラーっと布団が一面に敷かれているのだから。端っこのスペースで、携帯のバックライトに気をつけて操作をした。

 

日が変わった午前1時。布団教の修行に入った。だけれども、神経が高ぶっていて眠れない。気持ちを抑えるため音楽を聞く。この日は何を聞いていたのだろう。不思議だ。




夢をみたのか見てないのかわからない。

意識が飛んだ・・・。明日は、出発か。

 

つづく

 

*1:ちなみに初めて出走したブルベはBRM220金太郎200。実際は直前の降雪により、金太郎から真鶴半島をぐるっと回って戻るブルベになりました。後の真鶴200。

*2:アルミホイルを巻いた反射ベストで出走し、完走してきました。これはスタッフのT名人に感謝しなくては。いやマジで。

*3:GWでBRMを繋いで2700kmを走ろう!というコンセプトから生まれたブルベ。

*4:京都府京丹後市でした。

*5:途中、休息を1日挟んだ状態ですが、リタイヤした場所で走行距離は950kmくらいでした。

*6:更に言うと、亀太郎の合宿下見の際同行+伊勢1000の下見をしていたミクロンさん夫妻から、飯田峠とか大平峠が凄い傾斜だったという話を聞いて、更にモチベーションが上がった記憶があります。

*7:伊勢1000の練習を兼ね、ユメさんたちと練習という予定でした。

*8:この帰り道、なーちゃんからGARMIN COLORADO300を頂いたのです。御礼申し上げます。

*9:BRM705アタック日本海600で、雨で濡れたレーパンで走っていたら酷い股ズレによってDNFした反省から。あとシャワーを浴びることが難しいと判断し、衛生的な観点から持って行きました。

*10:佐渡で購入したコークスクリュー状のペンダント。何かと僕はゲン担ぎをするタイプです。

*11:これは@barubaru24さんに教えてもらった装備品。ロングライドはbaruさんの影響を結構受けています。

*12:これも@barubaru24さんから教えてもらったテクニック。本当に役に立ちました。

*13:勿論、ゆうゆう窓口でなくとも荷物の受け渡しは可能です。だけれども、自分の走行計画に従って走れる自身が無かったため、臨機応変に対応が可能なゆうゆう窓口を利用しました

*14:丁度このころ、Twitterで「輪行袋を持った人がいる!」とツイートした僕に、ナオキさんが「会話してみよう!」と背中を押してくれたことで声をかけることが出来ました。ありがとうナオキさん!

*15:コンサルランドヌールのSさんともここでお話することができました。